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「夢紡ぐ糸」 … 著:hira様

プロローグ
第1話 疑問
第2話 初恋
第3話 恋愛談義
第4話 大切な人
第5話 強くなること
第6話 夢の到達点
第7話 迷い
第8話 西野の決意
第9話 友達として
エピローグ
あとがき


プロローグ

ある日、少年と少女は中学校の屋上で出会いました。
その出会いは、ロマンチックとは言えませんでしたが、そのとき、少年から少女へ、運命の赤い糸がつながりました。
そして、2度目の屋上での出会いで、今度は少女から少年へ赤い糸がつながりました。
しかし、互いの想いを知らない二人の糸は2本に分かれていました。
そして、少年は二人の間の糸の強さに気づかず、3年後、ある一人の少女との赤い糸を選びました。
そして、運命に導かれた少女との赤い糸を切ってしまいました。
その少女との間には、もう一本の糸が残っていましたが、少女はある雪の日、自らその糸を切る決意をしました。
そして、互いにつながる糸が全てなくなったとき、少年は初めてその糸の強さに気づきました。
少年は悔やみましたが、もう、その糸を彼は戻すことは出来ませんでした。
このまま二人の間には何のつながりもなく終わってしまったと思われました。
しかし、少年が少女の小説を読んだとき、そして自分の夢を実現させる決意をしたとき、二人の間に
新たな運命の糸が生まれました。


その糸は、




夢紡ぐ糸。



第1話 疑問

(ふう、あまりいい感じしないかな。)
東城綾は、自分の小説を映画化した試写会をみていた。
(こことか、自分がイメージしたのとかなり違う気がする。)


1年後、綾は編集部で打ち合わせをしていた。
「それでですね東城先生、次の映画なんですが、」
「え、もう次を映画化するんですか。」
「実は、何人かの若手の監督に絵コンテを書いてもらって、その中から次の監督を選ぼうということになってるんです。」
「まあ、監督の新人発掘ですね。」
「はあ、」
東城綾の一作目の映画は、そこそこの興業成績を出していた。
邦画の成績がふるわない昨今では、健闘したほうであった。
(そういえば、真中くんも映画会社に入ったって言ってたけど応募するのかな)
「あ、選考会には東城先生も参加していただきますから。」


選考会当日、10人の若手の監督のコンテが集められた。
(真中くんの作品はなしか・・、やっぱりまだ早いのかな。そういえば今日の選考会にはいっている 角倉監督って確か、真中くんの入った事務所の人だったよね)

(でも、このコンテなんか似た内容が多いな、あっでも6番のはそうでもないかも、 結構うまく、原作のイメージをくみ上げてくれてるみたいだし、あっこのシーン結構いい感じかも)


「6番のコンテ、なかなかよさそうですな」
「そうですな、しかし聞かない名前ですな、中間純一とは」
「うちに入社して2年ですが、なかなか見所があると思いますよ。」
「まあ、角倉監督がそういうなら大丈夫でしょう」
「東城先生はどうですか」
「はい、あたしも6番がいいと思います。いくつかのシーンで実際に映像にされたのを見てみたいと 思った箇所もありましたし。」
「では6番の監督を採用、ということでよろしいですね。よろしければ挙手願います。」

全員一致だった。

「以上で、東城先生の次回作の監督は6番に決定しました。」

選考会が終了し、全員が席を立とうとしたが、
「あっちょっと待ってください。」
「実は、6番の中間純一というは偽名なんですよ。」
「なんですって、この選考会に本名を名乗らずに応募したのですか。」
「ええ、まあ・・。本名は 真中淳平。」
(えっ真中くん?)
「東城先生の高校の同級生で、東城先生と高校の部活で自主映画を制作していたことが あるんです。」
「そういうことで、本人から偽名での応募と東城先生にも自分が出していることを秘密にしてもらう ように頼まれましてね。」
(これが、真中くんの・・・。また真中くんに映画を作ってもらえるんだ。)


「あっお帰りなさい角倉さん、選考会どうでした?」
「ああ真中、おまえのが採用されたよ。」
「え? ええ〜!! だってほかの人はみんな俺より先輩で。」
「でも、全員一致で決まったのはおまえの作品だ。」
「全員一致・・・」
「まあ、がんばれよ。」
「はい」

「それと、東城先生には脚本も書いてもらうことになったから。」
「スケジュールとか大丈夫なんでしょうか。」
だが、角倉の話によれば、だいぶ前からその予定で調整していたそうだ。


(そっか、また東城の脚本で映画が作れるんだ。)


そのころ、選考会から帰ってきた綾は今書いている小説の執筆を進めていた。

カタカタ・・・
(ここで、香が告白して・・)
「わたし、健一さんが好きなんです」
「ごめん香、俺今は絵里さんが好きなんだ」
(え?)
(主人公はもともと香が好きだった、でも絵里さんを好きになって・・だから今はってセリフを入れ たけど)
(じゃあ、真中くんは? どうしてあのとき・・・)



第2話 初恋

仕事が終わってから、淳平はパティスリー鶴屋にいた。
「淳平く〜ん」
「つかさ、お疲れ」
「淳平くんも、お仕事お疲れ」
「ああ、そういえば店の方ずいぶん込んでたけど、日暮さん帰ってきてるのか」
「うん、日暮さんもまだ独身だからね。相変わらず女の人に人気みたい。」
「ふ〜ん」

「そういえばさ、選考会の結果、どうなった?」
「採用された。」
「やったー、これで監督デビューだねって、どうしたの?あまりうれしそうじゃないけど」
「う〜ん、今回応募したメンバーってみんな一度くらいは監督の経験がある先輩たちばっかだったん だよな。」
「自分が選ばれたのがちょっと信じられないっていうか。」
「きっと、淳平くんには才能があるんだよ」
「でも、今でも角倉さんの作品には全然及ばないって気がしてるんだけど。」
「こら!淳平!」
「はい!って、わかってるよ。決まった以上は全力を出す!」
「うん、よろしい。」
「脚本も東城が書いてくれるらしいし、がんばらなきゃな。」
「東城さんが?」
「うん、だいぶ前からそのつもりだったらしくて、スケジュールとかかなり調整したらしいぜ。」
「ふ〜ん。」
「なんて顔してんだよ、大丈夫、俺が好きなのはつかさなんだからな。」
「うん。」


綾を含めた映画の打ち合わせが終了して、スタッフが解散していく。

「真中くん。」
「東城。」
「あとで、駅前のファミレスでも会えないかな、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」
「仕事と関係ないこと?」
「うん、ちょっと。」
「いいよ、30分ぐらいかかると思うけど。」
「うん、それじゃ後でね。」

「ごめん東城、待った?」
「ううん、だいじょうぶ」
「えと、コーヒーお願いします」
淳平はすぐに注文を出した。
「それで、相談ってなに?」
「うん、まずはこれを読んでみてくれる?」
「これって、次の小説?」
「うん、まだちょっと途中なんだけど。」


読み進めていく淳平。
(へえ、相変わらずいいもの書くよな。)
(でも、この話読んでると、あの時のことが思い出されてくるような。)
(まさか、それに絡めて書いてるわけないと思うけど。)


「相変わらず、いいよな東城の小説。 それで?、この先の展開で悩んでるの?」
「ううん、そうじゃないんだけど。この話で主人公の健一が、初恋の香の告白を断るところがある よね?」
「あ、ああ」
「あたし、これ書いてて思い出したんだけど、真中くんあたしの告白のとき 『今は西野を大切にしたい』って言ったよね、あのときの今はって  どういう意味だったのか教えてほしいの。」
「!」
「もちろん、いまさら真中くんにもう一度告白するとかじゃないから。」
「ただ、どうしても気になって・・・。」
「・・・」
「・・・」
(もうこれ以上、隠してても意味ないか。)
淳平は、覚悟を決めて話すことにした。
「俺が初めて好きになった女の子は、屋上で空から降ってきた女の子だった。」
「でも、おれはその子が東城だって長いこと気づかなかった。」
「え、でもノート拾ってくれたのに?」
「はは、最初にノートを返しに行った時に、会う前は期待してたんだけど、 会った瞬間、『こんな地味な子があの子のわけない』って思ったんだよ。」
「そっか、よくいわれるもんね、とても同一人物に見えないって」
「それで、小宮山や大草から『そんだけかわいいなら絶対西野つかさだ』って言われてね。」
「それでおれもそう思いこんで、西野に告白したんだよな。」
「え〜、最初は人違いだったの?」
「うん、しかも告白したすぐ後に東城、近く走り抜けていったろ、それで人違いってすぐわかったん だけど。」
「それと、もう一人気になる女の子ができた。」
「その子は、おさげに黒縁めがねをかけた地味な女の子だった。」
「え、」
「一目惚れした女の子と、次第に惹かれていった女の子が同じだと知ったのは泉坂高校の入試の時、 でも、結局最後までその子に告白する勇気も持てず、その子の気持ちを確かめることもなく俺は、 次の恋を始めてしまった。」
「・・・そっか、お互いに後一歩踏み出す勇気がなかったんだね。」
「東城・・」
「うん、ちょっとスッキリした。真中くんがあたしを好きでいた頃があったのもうれしいし、高校の 頃の宝物が一つ増えたみたい。」
綾は晴々した笑顔を見せていた。
「今書いてる小説の続きね、香は遠くへ引っ越すんだけど、その前に健一に別れの手紙を出すの、 それを読んで、健一が大泣きする話に持って行こうと思ってるんだけど・・」
「真中くんも、つらかった?」
「ああ、あの雪の日に東城と別れた後、ずいぶん泣いてたな。」
「そっか・・ありがとう、それだけ聞けたらもう十分。」
「ふう、俺もなんかつっかえがとれた気がする。」
「ふふ。」
「はは。」
それから、しばらくの間俺たちは昔話に花を咲かせていた。



第3話 恋愛談義

「じゃあね、真中くん映画がんばろうね」
「ああ、絶対いい映画にしようぜ」
東城は、タクシーに乗って帰って行った。
翌日淳平は、つかさと会っていた。
「淳平くん。」
「つかさ。」
「ねえ、昨日東城さんと会ったんでしょう。どうだった。」
「あのなあ、仕事仲間をいちいち気にしてどうすんだよ。」
「ほんとーになんでもないの?」
「・・・まあ、つかさに隠し事したってすぐばれちまうからな。」
「え?」
「昨日、二人でファミレスにいってさ、俺の初恋のこと話した。」
「そっかって、なんで?」
「俺が東城の告白を断ったときに『今は西野を大切にしたい』って  言ったんだけど、似たようなシチュエーションを小説で書いてるときに、  俺が言った言葉を思い出して疑問に思ったらしい。」
「それで、東城さんはなんて?」
「高校のころの宝物が一つ増えたってさ。」


街を歩いていた綾は、唯・つかさと会った。
「あっ東城さ〜ん。」
「唯ちゃん、西野さん。」
「こんにちは。」
「こんにちは、唯ちゃん、今日はどうしたの。」
「今日ね、西野さんが新作のケーキごちそうしてくれるんです。あっ東城さんもどうですか。」
「えっでも・・・。」
「東城さんも時間あるなら、食べていかない?自信作なんだ。」
「ありがとう、じゃあ、おじゃまするね。」


「おいしかったー。」
「ほんと、ごちそうさま。」
「ありがとう、おそまつさまでした。」
しばらくケーキの話題で盛り上がっていたが、唯は気になった疑問を聞いてみた。
「そういえば、西野さんって淳平のどこがよかったんですか?」

「最初にいいなあって思ったのは、中3の夏頃に淳平のクラスで持ち物検査があって・・・。」
「・・・で色々あって、高3の時に初めて自分から告白したの。」

「なんで途中で別れたんですか。」
「うん、その頃は淳平くんにはほかに好きな子がいたんだよね。」
綾の方をちらりと見ながら話していた。
綾は、静かにお茶を飲んでいる。
「ええ〜! 西野さんより好きな女の子ってどんな子なんですかー?」
「・・・東城さん。」
「ぶっ!」
むせかける綾。
「にっ西野さん!」
「うっそ〜!」
驚いている唯、続いて綾にも聞いてみる。
「じゃあ、東城さんってその頃好きな人っていなかったんですか。あっ確か片思いの人がいるって 言ってましたっけ」
「その人とは、どうなったんですか。」
答える綾。
「高3の文化祭の夜に告白してね、ふられちゃった。」
「ええ〜!東城さんをふるなんて誰だったんですか。」
「ふふ、秘密。」
「いいじゃん、言っちゃっても。」
「西野さん・・・まあいいかな、あたしが好きだったのは真中くんなの。」
唯は、さらに驚いた。
「ええ〜!って、じゃあ東城さんも淳平とつきあってたことが?」
「ううん、真中くんの初恋があたしだって知ったのはつい最近なの、高校のころはずっと片思いだと思っていたから、お互い、ちょっと告白する勇気が足りなかった みたい。」

「う〜ん、じゃあ東城さんは淳平のどこが好きだったんですか?」
「中3の冬に、あたしの小説を読んでいっぱいほめてくれて、映画監督になりたいって夢を初めて 語ってくれたときかな」
「えっ?、それだけで?」
唯は少し納得していないようだ。

「それまではね、地味で目立たない女の子だったの、あまりクラスにもなじめなくて一人でいること が多かった。」
「人に自分の書いた小説を見せようなんて思ってもいなかったの、勉強の合間にただ思ったことを 書いていただけで。」
「弟以外とは、ほとんど男の子と口を聞いたこともなかった。  そんなあたしの存在を認めてくれて、いっぱいほめてくれた。  それで、恥ずかしくて誰にも言ったことがないっていう映画を作る人になりたいって夢をあたしに 語ってくれた。」
「その小説のノートを屋上で落として、偶然拾ってくれたのが真中くんで、そこからあたしの人生が おおきく変わっていったと思う。」
「もし、真中くんと出会ってなかったら、今もあの頃と変わらない自分がいたと思う。小説家に なんてなってなかっただろうね。」

「でも、東城さんが地味だったってなんかしんじられなーい。」
「そっか、唯ちゃん東城さんのあの頃の格好って見たことないもんね、待って写真持ってくるから。」
そういってつかさは出て行った。
「持ってくるって?なんで西野さんがあたしの写真を?」
しばらくして、つかさが持ってきたのは、「あっ卒業アルバム。」、中学の卒業アルバムだった。
「うん、この頃なら東城さんまだあの格好してたでしょ。えっとね、唯ちゃん、これが東城さん。」
そういって集合写真の中で、メガネをかけて髪を三つ編みにしている綾を指さした。
「え、嘘?!これが東城さん?」
唯は、何度も写真と今の本人を見比べる。
「どう見たって同一人物に見えないよう〜。」

「そういえば、西野さん、ラブサンクチュアリってやってみたことあります?」
「え? ああ、最近話題になってるやつね。」
「そういえば、外村くんから聞いたけど、あれって高3の文化祭のがもとになってるらしいよ。」
と、東城は説明した。
「だったら、文化祭の時に淳平くんと行ったときと一緒かな。」
「あの時は全然違う番号だったから。」
「ふーん、でも、今のラブサンクチュアリって、相性度何パーセントって出るんですよね。」
「うん、あっそういえば、ねえ東城さん、東城さんってあのときの番号、何番だったの?」
西野は気になったことを聞いてみた。
「ああ、あれね、実は後から聞いたんだけどそのとき、下駄箱にそんな紙が入ってるなんて全然気づ かなくて、途中で落ちちゃったみたい。だから、あたし自分の番号知らないの」
「ふ〜ん」
(まさか、いくらんなんでも淳平くんと東城さんが同じ番号だなんてことないよね。)



第4話 大切な人

「それじゃあ、西野さん今日はごちそうさま。」
「ごちそうさま、いろいろ話が聞けて楽しかった!」
「うん、あたしも楽しかった。それじゃね。」
つかさは、玄関でふたりを見送った。
居間に戻って、置いてある卒業アルバムをもう一度見ている。
「東城さんって、今は淳平くんのことどう思ってるんだろう。」
つかさは、それだけをずっと気にしていた。
並んで歩いている唯と綾、そこで唯はつかさの前で聞けなかったことを綾に尋ねる。
「ねえ、東城さん、」
「何?」
「淳平のこと、今はどう思っているんですか?」
綾は少し考えてから答えた。
「大切な人。」
「え、じゃあ今でも・・・。」
「ううん、そういうんじゃないの、前にファミレスで二人で話している時も楽しかったけど、高校の 時と同じような気持ちは感じなかった。」
「ただ、真中くんがくれたものはものすごく大きい、映研の思い出、たくさんの友達、そして恋。」
「それらはすべて、真中くんと出会ってから得られた宝物なの。」
「それでも、高校の頃のあたしは真中くんしか見てなかった。小説を書くのも真中くんのため、 そんな感じで真中くんのおかげでかなり変わることはできたけど、まだ自分の足で立っては いなかった。」
「真中くんとの恋は実らなかったけど、あの恋を思い出にして、自分の足で立って、前を向いて 歩いていけた。」
「そうして、高校を卒業してからは周りを見る余裕ができて視野が広がって、また自分が変わって いくのを感じられた。」
「でも、それも高校の時の自分が土台にあったから、やっぱり真中くんのおかげだと思っている。」
「だから本当に真中くんには感謝している。だから大切な人。」

「じゃあ、唯ちゃん、またね。」
「うん、東城さん、さようなら。」
二人は、途中で別れてそれぞれの家路についた。
唯は、綾と別れた後携帯を出してメールを打ち始めた。

「以上、唯からの報告でした。」
読み終えたつかさは、唯にお礼のメールを送った。
つかさの家で、綾が中座している間に、つかさが思わず「東城さんって今は、淳平くんのことどう おもってるのかな」とつぶやいた時に、唯が「だったら後で聞いてみてあげる」と話していたのだ。
(大切な人か・・・、)
(確かに、恋愛感情はないのかもしれないけど、それでも東城さんの中の淳平くんの存在って やっぱりずっと大きいんだ。)
(淳平くんの恋人はあたしで、東城さんは仕事上のパートナーで夢を語り合う相手・・・。)
(何も不安になることはないはずなのに・・ どうしてもモヤモヤはなくならない。)
つかさは、自分の中に湧き起こりかけているいやな感情をなくそうとしていた。


「うん・・うん・・、そうだね、ずっとよくなったと思うよ。」
綾は電話中だった。
「でも、これだと取り直さなきゃいけないシーンもあると思うけど、大丈夫?」
「うん、わかった。あっあたしの方もいくつか考えているのがあるから、メールで送るね。それじゃあね、真中くん。」
電話の相手は淳平、変更箇所の連絡だった。
(真中くんとあたしの夢はまだ遙か彼方、でも一緒に映画を作っているとその夢に近づいているのが実感できる。)
(今作っている映画も、撮影が進むにつれてどんどんよくなっている。)
(夢はまだ実現できるかすらもわからないけど、真中くんと一緒ならできそうな気がする。)
(さて、明日はあたしも撮影現場に行くから準備しなきゃ。)
綾は、明日の準備をしながら遠い夢に思いを馳せていた。

暗闇で一人佇んでるつかさ。
離れたところに淳平を見つける。
〔淳平くん!〕
はっと見ると、隣には綾がいた。
〔東城さん・・・〕
長い階段が見える。
二人はその階段を並んで歩いている。
そして、同じ場所を見上げていた。
だが、つかさは二人を追いかけられない。
彼女は、その長い階段に乗っていなかった。

「淳平くん!」
「あっ・・・今の夢?」
(なんだろう、どうしてあんな夢を・・・)



第5話 強くなること

そして、クランクアップまで、後一ヶ月余りとなったころ。
鶴屋定休日、淳平から撮影場所を聞いていたつかさは、差し入れを持って行った。
スタジオに着いて早々、
「だから! そうじゃないだろ!」
(な、なに?)
「でも! それじゃ不自然すぎるよ!」
(淳平くんと東城さん?)
二人はすごい声で、言い争っていた。
淳平が怒っているのも珍しいが、綾のあんな面はつかさは見るのが初めてだった。
「あの〜、大丈夫なんですか?」 つかさは、近くのスタッフに尋ねた。
「大丈夫、大丈夫、時々あるけど大抵監督のほうが言い負かされるから。」
しばらくすると、淳平と綾はふつうに話していた。

「あたし、びっくりしちゃった。淳平くんと東城さんがケンカしてるなんて」
「初めて口論しているときは夢中で気づかなかったけど、後から思い出すとちょっとショックだった というか、高校時代の東城からは想像もできないもんな。」
綾は、少し恥ずかしいのか、頬を赤く染めながら、話した。
「普段、ほとんど声を荒げることはないんだけど、映画のことになるとついね。真中くんも妙に頑固 なときがあるから。」
「大抵は、監督の方が降参するんですよね。」とスタッフの一人が口を挟む。
「しょうがないだろ、結局東城のほうが正しいんだから。」
「途中で、自分の間違いを正せるのはいいんだけど、もうちょっと早く気づいてほしいな。 結構、 諭すのも大変なんだから。」
そういって、綾は淳平に笑顔を向けた。
「う、・・・努力します」
淳平は素直に反省した。

撮影が予定通りに進み、淳平とつかさは帰途についた。
「ねえ、東城さんってだいぶ変わった?」
「うーん、普段の東城はそれほど変わってないと思うけど、映画のこととなると、だいぶ積極的に なったな。」
「映像研究部の活動の時は? 今ほどじゃなかったの?」
「そうだな、高校の頃は映画の撮影であまり口を挟むようなことはしなかったな。」
「高校卒業してからだろうな、いい意味で変わっていったのは。」
「実際、前に東城が言ってたよ、あの時自分は振られたけど今はそれでよかったと思うって。」
「東城さんがそんなことを?」
「俺もそう思っている、4年間世界を旅して回った経験は、俺の大事な財産だからな。」
「もし、東城とつきあってたらあんな経験することはなかった。」
「そう・・」
(淳平くんも東城さんも、高校の頃と比べてものすごく変わってる。ううん、すごく強くなった。)
(あたしは、どうなんだろう、あの空港での別れの時、強くなるって決めたけど。)
(あたしは、強くなれたんだろうか。)
(それに、東城さんが変わったのは淳平くんのおかげ、そして淳平くんはあのバレンタインの時に 変わったけど、そのきっかけになったのはやっぱり東城さんだった。)
(2人は、互いに影響しあっている、それは、仕事上のパートナーとしてもプラスに働いていると 思う。)
(そう、今の2人の関係は仕事上の関係、あたしと淳平くんの関係とは違う。だから気にする必要は 無いんだよね。)



第6話 夢の到達点

日曜日、淳平と綾は事務所の会議室で残りの撮影について打ち合わせをしていた。
ふいに、会議室の外が騒がしくなる。
「なんだ?」
「ちなみちゃんの声みたいね。」
端本ちなみは、この映画で女優デビューすることになった。
それほど出番が多いわけではないが、十分に役をこなしていた。
やがて、外の喧騒もピタリと止んだが二人はそれに気づかずに打ち合わせに集中していた。
「これで、後は撮影を完了させるだけだな。」
「そうだね。」
「しかし、東城が随分協力してくれたおかげで、本当に助かってるよ。 撮影のスケジュールもそんなに遅れてないし、撮影が進むにつれてどんどん映画がよくなっている 気がする。」
「東城と話してると、どんどんイメージが膨らんでいっている。東城に引っ張られているような気が するんだよな。」
「それは、あたしも同じ、真中くんと話してると自分の中でどんどん新しいものが生まれてる気が してる。」
「きっと、お互いの才能を引き出しあってるんだよ。」
「俺が東城の才能を引き出してるなんて、ちょっと信じられない気もするけど、東城がそう言うなら そうなんだろうな」
「でも、中学の時の真中くんのあの言葉がなかったら、あたし自分の小説を人に見せるなんて一生 なかったよ。」
「中学かあ、ほんとあの頃に比べたら、東城も随分変わったよな。」
「それもこれも、真中くんとの出会いが全ての始まりだからね。」
「ああ、俺もあのときの出会いから、自分の人生が大きく変わったからなあ、あまり思い出したく ないこともあるけど。」
「ふふ、そうだよね。あたしはあの頃一方的な片思いだったからまだましだけど、さつきさんと 西野さんは随分振り回されてたみたいだもんね。」
「うう、それ言われると耳が痛い。」
「ふふ。」
「はは。」
二人は笑いながら会議室を出た。
「あれ、だれもいない。」
「そう言えば、途中から静かになってたね、 もしかしてみんなちなみちゃんと出かけたんじゃない?」
「たく、ちなみちゃんも相変わらずだな。」
そう言って、淳平は携帯を取り出して、電話をかけた。
「もしもし、真中ですけど・・ ちなみちゃんもみんなも一緒ですか。それで、事務所には? ・・はい、わかりました。戸締まりして俺たちもあがります。」
「東城、俺片付けと戸締まりして帰るけどって、東城、どうかした?」
綾は、一台のパソコンの前でモニタを見ていた。
「これ、ラブサンクチュアリだね。」
「ああ、なるほどちなみちゃん相手にみんなして占っていたのか。」
「ねえ、あたしたちもしてみない?」
「え、東城とか?」
「うん、最近は仕事の相性とかにも利用されているって聞いたことがあるよ。」
「そっか、おもしろそうだな。」
二人は、パソコンにそれぞれ自分のパーソナルデータを入力した。


しばらくして結果が表示される。
『お二人の相性度は・・・100%です。』
「「・・・」」
「100%って・・・はは、ちょっとすごいな。」
「うん、でも・・あ、この雑誌。」
綾は、近くにあった週刊誌を手にとってページをめくる。
「あった。」
「どうかした?」
「うん、これを見て。」
そこには、ラブサンクチュアリのプログラムを作った人の記事が載っていた。
そして、相性度100%は最初に泉坂高校の文化祭の時に一組だけいたが、そのカップルは 参加しなかったという。
そして、今は90%以上のカップルには連絡をもらってお祝いの品を進呈しているが、未だ100% のカップルからの連絡はないということだった。
「この一組って・・。」
「間違いなく、俺たちのことだろうな。」 「「・・・・・。」」
「なあ、東城・・」
「うん、わかってる、これは二人だけの秘密だね。」
「悪い。」
「真中くんが謝ることないよ、今のあたしたちでこんなのが世の中にでたら大変な騒ぎだもん。 映画の宣伝としてはすごいだろうけど、プライベート面でちょっと、お互いまずいことになりそう だから。」
「え?東城も?」
「そうよ、こんなの知れ渡ったら、彼氏なんて絶対出来ないよ。それでも言い寄ってくるのは、 自信過剰なタイプばっかりだろうし、今でも割とそうなんだけど。」
「そっか、それもそうだよな。でも、さっき二人で話してたこともそうだし、俺、高校の時から 感じてた。東城と一緒ならなんだって出来る気がしてた。この結果見てると、ああやっぱり そうなんだなって納得出来る。」
「うん、それに、あたしたちの遠い夢もこの結果見てるとすごく勇気づけられる気がする。」
「はは、確かにな、考えてみればとても到達出来そうにないような夢だったからなあ。でも俺も同じ 気持ち、これを見てると、もしかすると到達できるんじゃないかって思い始めてる。」
「まだまだ、道は長いけどな。」
「うん、これからも一緒に映画を作っていこう、あの夢につなげるために。」
「ああ、もちろん!」


あたしたちの、夢の到達点はそのゴールすら見えなかった。
でも、今ゴールが見えた気がする。
見えているゴールは、まだ遙か彼方だけど、それでも、ゴールが見えたことは、あたしたちにとって 大きな一歩だと思う。
あたしたちはそれに向かって歩き続ける。二人の夢を紡ぎながら。

東城の幸せ。end



第7話 迷い

「そういえば、東城もやっぱり彼氏がほしいの?」
「うん、人並みにはね、ただ、今は映画制作に夢中になっているから、探してる暇もない状態。」
「彼氏かあ、う〜ん、日暮さんなんてどうかな。」
「え?日暮さんって西野さんがつとめてる店の? あの人けっこうかっこいいけど、あたし・・。」
「かっこいい人は苦手?」
「うん。」
「確かに外見かっこいい人だけど、それだけじゃないぜ。」
淳平は、日暮と初めてあった時のことを話した。
「そんなことがあったの。」
「うん、日暮さんはいまでもかっこいいけど、そういうところは変わってないと思う。」
「そっか、会ってみようかな。 映画が完成したら紹介してくれる?」
「ああ、向こうにも伝えておくよ。」

淳平と綾が、ラブサンクチュアリの結果を知る数日前。
つかさも、同じ週刊誌のラブサンクチュアリの記事を読んでいた。
「泉坂高校で、一組だけの相性100%のカップル・・・。」
「・・・・」
「ピ、ポ、・・」
「もしもし、外村くん? あたし、西野つかさだけど。」
〔つかさちゃん? ひさしぶり〜、よく俺の番号覚えてたね〜。〕
「うん、ちょっとたのみたいことがあって、・・・」
〔・・・OK わかった 調べてみるよ。でも、いいのか?。〕
「うん、どうしてもはっきりさせておきたいから。」

そして、つかさは外村から連絡を受けた後、店を早めに上がらせてもらって、外村の事務所に 向かった。
「ごめんね、こんな遅くに。」
「いや、いつもこのぐらいの時間なら、まだいるからな。それで、話を聞いてきたんだけど、 プライバシーの問題もあるから、個人名は教えてくれなかった。でも、そのときの番号は 教えてくれた。」
「1508だね。」
「ああ、・・でも確か東城は自分の番号を知らないはずだぜ。」
「たぶん間違いないと思う。淳平くんと相性100%なんて、東城さんしか考えられないもん。」
「確かに、そうだな。それで、これからどうするんだ?」
「しばらく考えてみるつもりだけど、たぶん・・・」
「でも、今のあの二人をみてても、二人の間に恋愛感情があるようには見えないけどな。」
「恋愛感情がない・・か。」
「まあ、じっくり考えて答えを出せばいいさ、せめて今の映画が完成するまではな。」
「うん、わかってる。」
(確かに、2人に恋愛感情がないのはわかっている。それでもあたしは・・・。)



第8話 西野の決意

映画のほうは、無事にクランクアップ、編集作業に入っていった。
綾は、2,3日に一度編集された映像のチェックでスタジオを訪れていた。
「あ、西野さん。」
「東城さん。」
「西野さんは真中くんのところに? まだ編集中だったでしょう。」
「うん、あたしは差し入れを持って行っただけだから。東城さんは?」
「あたしは、編集終わったぶんを見てきただけ、特に問題とかなかったから、これから帰るとこ。」
「そっか、ねえ一緒に帰らない? 話したいこともあるんだ。」
「え、いいけど。」

スタジオ内、淳平たちはつかさが差し入れてくれたクッキーを食べていた。
「かんとく〜 相変わらずあつあつですね〜。」
「はは。」
「ほんと、西野さんっていつも笑顔でかわいいし。」
「・・・いつも笑顔、か。」
「ん? 監督、どうかしました?」
「いや、なんでもない。」
(最近のつかさは、つくり笑いが多いな、やっぱり寂しいのか。でも、これからしばらくは映画が 完成するまで時間作れないしなあ。)

泉坂まで戻ってきた綾とつかさは、近くの河原のベンチに腰掛けていた。
遠くで子供たちの声が聞こえる。
「それで、話って?」
「東城さん、答えづらいかもしれないけど、正直に答えてほしいの。」
「淳平くんの彼女になりたい?」
「え?」
「お願い、正直に答えて。」
つかさの目は真剣だった。
「そうだね、一緒に映画とか見に行って、終わった後映画の話して、そうしたら楽しいだろうね。」
「じゃあ。」
「でもね、それは楽しいかもしれないけど、今、真中くんと一緒に映画を作っている時間に比べたら たいしたことじゃないの。」
「高校の頃も映画を作ってたけど、あの頃はただ真中くんのために手伝っていた。」
「でも、今はちがう。もちろん真中くんと映画を作るのは楽しい。 真中くんと一緒だと、自分の中から新しいものがどんどん生まれてる気がする。 でもそれだけじゃなくて、大勢の人が映画の完成に向けてエネルギーを注いでいるのがものすごく 気持ちいいの。あたしもその中の一人なんだと思うと、すごく感動する。」
「だから、今のあたしは恋をしている暇もないし、恋にエネルギーを回している余裕もないかな。」
「それに今の真中くんとは、お互い気をつかうようなところがなくなってるし、前に西野さんが 見たような口論を平気でするし、高校の頃のような雰囲気なんて全くなくなっちゃったかな。」
つかさは、黙って聞いていた。
「そっか、今は大事な友達みたいなもんなんだね。」
「うん、でもどうしたの? 急にこんなこと聞くなんて。」
「ううん、別にたいしたことじゃないの。」
(やっぱり、あたしが自分で決めないといけないんだ。)



第9話 友達として

映画は完成し、試写会での評判はすごかった。
つかさは、二人にお祝いしたいと言って鶴屋に連れて行った。
「あたし、東城さんの原作の一作目も見たけど、あれよりも全然感動した!」
そう言って、3人で夢中で試写会の話を続けていた。
それから、つかさが次の映画のことを聞いてきた。
「ねえ、次の映画も二人でつくるんでしょ。」
「う〜ん、そのつもりではあるんだけど、具体的になるのは今の映画の結果が出てからだな。」
「きっとすごい人気が出るよ。試写会の評判もすごくよかったんだから。」
「うん、あたしもそう思う。きっとまた二人で作れるよ。」
つかさと綾は、自信満々に答えている。
そして、つかさがもう一言付け加えた。
「これからもあたし応援するね、2人のことを・・・・・2人の友達として。」

淳平と綾は一瞬、つかさがなんと言ったのか理解出来なかった。
数瞬の沈黙の後。
「な!、何いってんだよ、つかさ。」
「そうよ、急にどうしたの?」
そして、つかさはゆっくりと話し始めた。
「2人が映画を作り始めてしばらくしてから、よく同じような夢を見るの。」
「淳平くんと東城さんが、並んで長い階段を上っていく夢。」
「2人はずっと上を見上げて歩いてて、あたしは淳平くんを追いかけようとするけど 追いかけられない。あたしは階段に乗っていなくて、遠くから見ていることしか出来ない。」
「最近、わかり始めたんだよね、淳平くんと東城さんはものすごく大きな夢を持っていて、 それに向かって歩いているんだって。」
「確かに、東城とは一緒に目指してる夢があるけど、それはつかさに対する気持ちとは 全然違うんだ。おれが好きなのは、つかさなんだから。」
淳平は、必死で自分の気持ちを伝えようとしていた。
「うん、淳平くんの恋人はあたし、でも、淳平くんと東城さんの絆の強さを考えると、 恋人のあたしと淳平くんの絆がどれだけちっぽけなものか、思い知らされる。」
「それは、2人が映画を作り始めたときから漠然と感じていたけど、2人の相性が100%って わかってから確信した。」
「「えっ」」同時に驚く2人。
「・・・・、その様子だと、2人とも知ってるみたいだね。」
「いや、それよりもなんでつかさが・・・」
「あたしが知ってる理由?」
「ああ。」
「外村くんに頼んで調べてもらったら、泉坂高校の文化祭で100%だったカップルの番号は 淳平くんの番号だった。」
「でも、それだけだと相手はわからないでしょう。あたしは自分の番号知らないし。」
「今の2人を知ってる人間ならみんな同じ答えを出すよ。淳平くんと相性100%の相手なんて 東城さんしかいないって。」
2人は、なにも言えなかった。
「あたしが淳平くんを好きな気持ちは変わらない。だからこのまま恋人のままでいることも考えた。 でも、いつか淳平くんがその夢を叶えたとき、一緒に喜びを分かち合えるのはあたしじゃなくて、 東城さんなんだよね。」
「もし、淳平くんが一人でその夢を追いかけてるなら、恋人として、夢を追う淳平くんを支えたいと 思う。それなら、淳平くんが夢を叶えた時、あたしは淳平くんと一緒に喜びを分かち合える。
でも、淳平くんの夢を支えられる人は別にいる。互いに支え合うことが出来る人が・・・。 恋人のあたしが支える必要なんかない。
淳平くんと東城さんなら、互いを支え合って夢に向かってずっと歩いていける。 そうなったら、いつか夢を叶えた時、あたしは素直に喜べないと思う。」
「それなら、恋人じゃなく友達として2人の夢を応援しようって思った。」
「「「・・・・・」」」
「日暮さんがさ、来月からまたフランスへ行くことになってて、それにあたしも一緒に行かせて もらおうかなって思ってる。」
「期間は半年から長くて1年。だから、今度帰ってくるときは、友達として再会しよう。」
そう言ったつかさは、笑顔だった。
しかし、淳平にはわかっていた。そして、気付いてしまった。
「俺、つかさの笑っている顔が一番好きだ。でも・・、もう恋人としての俺の前で本当の笑顔を 見せてくれることはないんだな・・・。」
「・・・うん。」
淳平のとなりで綾は目に涙をためていた。

つかさは、かたづけがあるからと、淳平と綾を先に帰らせていた。
厨房で、かたづけをしていると、不意に扉が開く音がした。
「日暮さん?」
「ああ、淳平から電話があってな、つかさくんがひとりでかたづけをしているが大変そうだから 手伝ってくれって、つかさくん、泣いてるのか?」
「い、いえなんでも。」
(もう、淳平くん最後までやさしいんだから。)
「なにかあったのか。」
「・・・、少し話を聞いてもらえますか。」

今日、あたしは自分の恋を終わらせた。それは、今のあたしにとってつらいことではあったけど、 いつか2人が夢を叶えた時、この決意が正しかったと言える日が来ると思う。
だからそれまで、2人が紡いでいく夢を応援する。それが、あたしにとって新しい幸せをつかむ ことにつながると思うから。

西野の幸せ。end



エピローグ

桜が散っている公園で、淳平と日暮が並んで立っていた。
向こうでは、綾とつかさが笑っていた。
「ありがとうございます。つかさを支えてくれて、あいつが本当に笑っている顔を見れてよかったと 思っています。」
淳平は日暮にお礼を言った。
「おまえらのほうはどうなんだ?」
「そろそろ考えていますよ、お互いほかに相手を見つけるのも難しそうですし」
「はは、それもそうだな」
つかさの薬指には日暮さんが送った指輪がある。

そして、俺のポケットには、綾のサイズに合わせた指輪が入っていた。