Top > Writing > 「夢の続き 明日の風」




■SCENE-08:『E.v.o.l.u.t.i.o.n』


「もうすぐ年の瀬だってのに忙しくてしょうがねぇな……。」
 Satolのスタジオの中で、そうぼやく力也に対してヒロシが至極真っ当な返答をした。
「年の瀬だから忙しいんだよ。どこだってそうだろ。坊さんも走るって書いて師走って言うんだからよ。」
「(へぇ師走ってそうだったのか。)…そりゃそーだけど、今年も泉坂帰れずじゃねぇ?このままだと。」
「帰れる訳ねーだろそりゃ。年末年始は特番シーズン。端本も結構お呼びかかってるんだから。真中なんかロケで海外で過ごすって言ってたぞ。」
「はぁ…親父とお袋に伝えておくか。」
「お、意外な家族思い。」
 時代はもうすぐ2010年を迎える。クリスマスや新年などイベントも盛り沢山な年末年始は世界中のどこでも晴れやかなムードに包まれるが、とりわけ世界はミレニアム(millennium)を迎えて丁度10周年という事で、ディケイドイヤー(Decade Year)と称して一際その祝賀ムードが強かった。付け加えて辿るならば、ヒロシ、力也や淳平、綾、つかさらは中学1年、ちなみや唯らが小学6年の時にミレニアムを迎えた事になる。
 といってもそれは、その一大イベントの類を支える裏側は一際重労働に従事していかねばならない、という事も意味している。輪をかけて多忙になってゆくアイドル・端本ちなみ、その現場マネージャーである力也がぼやくのも当然と言えば当然かもしれない。
「もう〜やかましくて集中できませ〜ん!」
 忙しさにウンザリするムードにちなみがイライラして不満をぶつけた。何しろこれからレコーディングである。彼女は曲を聴いて歌詞を見ながら集中している真っ最中だった。
「ほら、集中できねぇってよ。いいから隣の部屋借りてパソコンと携帯繋いで他の仕事しとけ。でないと片付かないぜ?」
「ちぇー、俺もちなみちゃんの唄ってる姿見てぇのになぁ。」
 またもポワーンと妄想に耽りそうになる力也にヒロシがまたもつっこむ。
「これも端本の為にお前に任された重要な仕事だぜ。」
(ちなみちゃんの為……ちなみちゃんの為……!ちなみちゃんの為!!!)
「よっしゃ、やるかぁー!!!」
 すかさず力也は退出し、他の仕事に取り掛かりに行く。その速さは尋常ではなかった。
「あはは…『ちなみちゃんの為』と言われると彼は簡単にエンジンがかかるねぇ。」
「アイツは単純だからな。」
「ヒロシ…お前言うコトが黒いよ。」
 そう苦笑して、コーヒーを飲み干すと、Satolは「さて」と呟いてレコーディングの準備に取り掛かろうとした。
「準備はいいかい?」
「はい!」
 緊張した面持ちに見えるちなみだが、これでも全然気持ちはリラックスしていた。デビューシングル候補の内、既に3曲の音入れを終えており、今日は残す所の最後の1曲であったし、他の仕事を疎かにしている訳ではないが、何より今の彼女は仕事の意識がほぼ歌手デビューに向かっていた。Satolの穏やかであり厳しくもある指導も功を奏していた。

「♪キレイに捨てられない 夢みたいで」

「うーんまだピッチがちょっと甘いね。それとサビではもっと歌声を爆発させてみて。」

「♪ゲーットアーップ!!!突き進め!!!」

「いや、そんなには……。『突き進め』の最初、ちょっと音外れちゃったよ。もういっぺん。」

 その様子を、腕を組んでコーヒーを飲みながらヒロシはジーッと見つめ続けていた。
(やっぱり餅は餅屋だな……。)
 熱心に指導するSatolとそれに必死に応えようとするちなみを見て、彼はそう考える。歌手としての彼女を彼に預かってもらった自分の判断は正解だという確信を持った。勿論彼はこのように現場にも赴いているので製作に携わっているのに違いはない。それは歌手として、だけではなく端本ちなみという商品丸々全体を統括する役目に居るのが彼だからであって、いずれは彼が直接携わる事なしでもやっていけるように考えている。何もかもが彼に出来る訳では当然ないし、何もかもをやっていては自分自身もタレントとしての彼女の方向性も行き詰ってオーバーフロウしてしまう。任せられる仕事は相応しい人間に任せるのが一番なのだ。ヒロシはそういった統括力に関してはずば抜けた才を持っていた。一から芸能プロダクションを設立して早速第1号のアイドルを売れさせる、その手腕は伊達ではない。
 何回目かのテイクでようやく録音が終了した。これでシングル候補曲の全てのレコーディングを終えた訳だ。録音ブースから戻ってきたちなみをヒロシが拍手をしながら出迎える。
「お疲れ。」
「うん、よく唄えたね。アイドルにありがちな加工なんかもしなくていい出来だ。」
 褒め称える二人だが、ちなみ自身はあまり納得いっていないようだった。
「まだまだですぅー。こんなんじゃ夏前のLIVEだとまた音外しそうですー。」
 プクーッと膨れてスタジオの椅子に腰掛ける。
 ヒロシもSatolも内心ニヤリとしていた。既にちなみの意識は翌年夏に予定しているLIVEにも向かっている貪欲さだ。この意識こそがヴォーカリストとしての成長を支えるのに一番不可欠なものだ。
「じゃあ、この中からシングル曲を決める訳だけど…プロデューサーとしてはどういう意見がある?」
 ヒロシが早速次のステップに入りだした。
「んー正直、もう少しじっくり決めたい気もするけど、ま、しょうがないか。ちなみちゃん忙しいからね。俺としてはどれだろうなぁ…。どれもシングル候補に考えて作ったアップテンポものばかりだけど、その曲その曲である程度どう扱うかってのも視えてくるんだ。『Heavenly Road』はLIVEの定番曲として盛り上がれるかな?と思うんだけど、この間ちなみちゃんも相当苦労したようにかなりBPMも高いから、最初に出すモノという点で考えるとイマイチかな?」
「ファーストシングルって大事だからな。プロフィールにはいつまでもその曲でデビューって記されるし、歌手・アーティストとしての今後の方向性がそれだけで大きく決定付けられる可能性もあるし。」
「俺としては、ちなみちゃんは最強アイドル!…って言うとなんか安っぽいけど、どんなに壁があっても全開でそれをぶち破るようなパワーを感じさせてくれるような印象なんだよね。勿論そういった枠はどんどん外していって、色々な表現が出来るようになってもらうつもりだけど、それを最初に解りやすく出すとしたら今日録った『GET-UP!』がいいかな?ストレートに元気が出てくる歌っていうか、そういうイメージで夏未ちゃんにも作詞頼んだし。何よりちなみちゃんのやる気を表した曲だからね。」
「そういう意味では俺は『笑顔のSpiral』もいいとは思うんだけどな。」
「ちょっと俺は男性ファン向け過ぎっていう気もしなくもないんだよねぇ。グラビアアイドルとしてのイメージソングみたく誤解されちゃうのはちょっと気懸かりかな。ちなみちゃんには同性からも人気を得られる歌手になって欲しいし。」
 これはヒロシもSatolもちなみも共通して考えていたコンセプトに関わる問題だった。あくまで「歌手・端本ちなみ」としての方向性を突き詰める。グラビアはグラビア、バラエティはバラエティ、歌手は歌手というように、ダイヤモンドがその色を変える様に、様々な角度=分野でも輝けるようになりたい。全部が中途半端になるのだけは否定したかった。どうすればそうならないかを考えた時、シンプルに他の分野の事を考えず、その分野でやる事に集中させる。だから、ここでは歌手としての方向性を重視するのは必然なのだ。
「フーム…そういうバランスも考えると『GET-UP!』のがいいか。ちょっともったいない気もするけど…。」
「まぁそう言ってくれるのはありがたいけどね。」
「確かに贅沢な悩みかもな。端本はどう思う?」
「えっ?そぉですねぇ…ちなみが一番唄っていて気持ちよかったのは『Non-Stop OVER DRIVE』なんですけどぉ。でもこれって…。」
「長いんだよなぁ…。」
「トータル7分はちょっとな。」
「気合入れすぎちゃったかな。」
 眼鏡を上げて苦笑しながらSatolが釈明をした。
「ま、やっぱりさっき録った『GET-UP!』かな。よし決定!」
 こうして、端本ちなみのデビューシングルは決定した。

「さて、この調子で今後は3月にはセカンドシングル、アルバムという訳だが…。」
 ヒロシの目は早くも次に向かっていた。
「心配しなくても間に合うよ。昔と違って今は発売まで1月あればプレス可能だしね。」
「来年も忙しくなりそうですねぇ〜。」
「でも楽しくなりそうだろ?……端本、それ何読んでんだ?」
 今日の課題は3人ともとりあえず終了した。くつろぎながら次の話をしている中で、ヒロシはちなみがちょこんと小説を読みながら応えていた事に気付いた。
「『黎明-REIMEI-』?著、東城綾…なんだ、東城の新刊じゃないか。へぇー珍しいな。どういう風の吹き回しだよ?」
「どぉいうイミですかぁ〜?ちなみだって小説くらい読みますぅ〜!」
 いかにも意外、と言わんばかりの態度を全面に出すヒロシにちなみが膨れっ面をして返事をした。
「俺が読んどいて、って言ったんだよ。」
「東城の小説を?」
 振り向きながら今度は純粋に意外な印象を受けてヒロシがSatolに尋ねる。
「いや、別に誰のでも小説でなくても良いんだけどね。とにかく活字を読んどいてって言っておいたんだよ。作詞をやってみたいって言うからさ。」
「え?そーなの?聞いてねぇぞ。」
「別に逐一報告しなくてもいいだろう?」
「まぁ確かに。」
「まだ出来てもいないしね。まぁ作詞をするっていうチャレンジスピリッツは凄くイイ事だと思うよ。アイドル出身でも今ややってて当たり前のになってるからね。巷じゃゴーストライターなんかもよくあるみたいだけど。ただ、ちなみちゃんには一つお願いがあってさ。彼女がやる作詞ってのは職業作詞家のモノにしてくれって言ってあるんだ。」
 新しいコーヒーを淹れたかと思うと机の傍らに置き、Satolが腕を組みながら続ける。
「まず、俺が求めるのは同じ曲に乗せるものでも、自分のメッセージを伝えたくて詞を書く場合のものじゃない。メロディに乗せた時の美しさとか、曲を歌う歌手・アーティストのイメージやコンセプトに沿って書かなきゃいけない。これが職業作家としての作詞家。彼らは何と言ってもボキャブラリーが求められる。たとえセンスがあってもボキャブラリーを増やす事だけは誰もがやらなくてはいけない地道な努力だよ。今現役で活躍しているようなバンドのミュージシャンですらボキャブラリーが少ないって悩むくらいなんだから。」
「成程。ボキャブラリーを増やすにはとにかく本を読みまくるのが確かだわな。」
「それと、たくさん文章を書くことだね。何かを得てもフィードバックしなきゃ何にもならないからね。勿論、ちなみちゃんの場合は別に他のミュージシャンのイメージを考えて書くなんて事はないけど、少なくとも自分自身を『歌手・端本ちなみ』という存在を客観的に見てもらわなきゃいけない。もっと乱暴に言えば、俺のプロデュースイメージと合っているかどうかが全て、という事になる。」
「ふーむ…で、東城の小説を読んでる、と。」
「そぉですよぉ〜。やっぱり東城先輩の小説が一番いいじゃないですかぁ〜叙情的で凄く泣けるし、ちなみの知らない単語も一杯出てくるから勉強になるし〜。アタシ先輩の小説大好きですから!」
(へ、へぇ〜そうだったのか…。)
 これまた意外だ、と言わんばかりの反応だったが、今度はそれを出さずにヒロシが話を続けた。
「ま、その判断は賢明だな。確かに東城の小説はうってつけだ。で、読んでるのはいいけど、その書く方ってのはやってる訳?」
「そうだ!それも聞いてみるんだった!」
 ウッカリしていたと、思い出したようにSatolが切り出した。
「でも、出来た?」
「バッチリですよぉ〜Satolさぁ〜ん!」
「え?何?何?もう曲に詞乗せてきたって訳?」
「一応、何曲かアレンジ前のトラックを渡しておいたんだ。でももう出来てたなんて驚いたなぁ。」
「えっへん!ちなみもやる時はやるんですよぉ!」
 人差し指を立てて得意気な顔をして語るちなみに、Satolもまた瞳を輝かせる。ヒロシもまたますます自分の判断に自信を深める。既に自分が深く関わらなくても動ける土台が出来ている事を嬉しく思った。軽く第三者として楽しんでいる節すらある。
「じゃあどうしよう?歌詞を読む…か、…実際唄ってみる?どっちがいい?」
「実際唄ってみます〜。」
「そう言うと思った。早速ブースに入ってみて流そうか。」
「はいっ!」

「とりあえず、別に録音する訳じゃないから。唄い難いかとか曲とあってるかとか確認する事から始めるから軽い気持ちでね。別に歌詞カード見てもいいよ。」
「見なくてもいーでーっすっ!」
「よし、じゃあ流すよ!」
 まだまだ音も少ないが、しっかりしたメロディのトラックが流れる。Satolもヒロシも彼女がどんな歌詞を書いてきたのか、非常に楽しみに見つめている。
 だが、この二人の期待は次の瞬間、見事に裏切られる事となる。

「♪ちーなーみーはかわいいっ!ちーなーみーはかわいいっ!」

「♪星も〜月も〜太陽も〜みーんな、ちなみのために廻ってる〜!」

「♪C・H・I・N・A・M・I・N!ちなみのアーイで〜、みーんな元気になれる〜!」

『………………………………………………………………………………………………。』
 腕を組んだヒロシの口はヘの字のまま堅く閉じられ、普段から前髪で見えない眼光は更に暗く見える。Satolも眼鏡のレンズだけが白く浮かび上がって瞳が見えないように感じられる。
 ちなみはまだ意気揚々と唄っているが、聴けば聴くほど残念な気持ちになってくる。
「…作詞の話は当分ナシだね。」
「…東城の小説読んでどうしたらこんな電波ソングになるんだよ。」
 唄い終えたちなみに対して二人は珍しく厳しく言い放った。
「どぉでしたぁ〜ちなみの力作〜?」
(ボーーーツ)ッ!!!』
 ちなみに作詞の才能はなかったようだ。

「あんなに大きい声で言わなくてもイイじゃないですかぁ〜。」
 ご立腹のちなみに、ヒロシも思わず声を荒げる。
「全然ダメッ!没!全部お前の欲望を歌詞にしてるだけじゃねーか。」
「それで何がイケナイんですかぁ〜?」
 ブーブー垂れるちなみと珍しく怒るヒロシにSatolが仲裁しようとする。
「まぁまぁ。でもあの『ちなみはかわいい』とか、ああいうのは何かに使えそうな予感はするよね。イメージとしてはそういうドッカーン!な感じだから。」
「さっすが、Satolさん!ちなみのコトわかってる〜!」
「でも、没だからね。」
 プロデュースイメージとしては極端に遠くないと半ば無理矢理にフォローするSatolにちなみはコロリと表情を変える。だが、Satolは容赦なくきっぱり言い放った。
「あ〜あ…東城先輩の小説もイメージしたつもりなんだけどなぁ〜。」
 その発言にヒロシもSatolも心の中で全力でツッコんだ。
(どこがだよッ!!)
「ん?」
「ん?、ってどうした?ヒロシ。」
「端本、お前この詞といい、東城を参考にしてるって事は、少なくとも東城みたいな文章力とかを目標にしてるって事?」
「当たり前ですよぉ〜、直林賞には敵わないかもしれないけど、目指すなら1番でしょ?自分の作詞だけならそれくらいいかなきゃ。」
 その上昇意識の高さを買ってはいるのだが、さすがにこの状況ではプロデューサーのSatolも苦笑するしかない。だが、確認を終えたかのようにヒロシがさらりと一言言ってのけた。
「だったらさ、東城に書いてもらうのが早いんじゃね?」
「…あ。」
 これは盲点だった。単なる思いつきだろうが、これは相応しい者に相応しい仕事をしてもらう、その基本的な経営感覚が彼にそう言わせたのかもしれない。
「東城先輩にも書いてもらうのかぁ〜それって最高じゃないですか!」
 ちなみは嬉しそうに声をあげるが、そこには簡単に想像できる問題がある。
「でも、いくら君達の知り合いでもそう簡単にやってくれるかい?忙しいだろうに。それに才能のある作家だといっても作詞はやっぱりさっき言ったように違う作業だからね。まぁ文才ある人はそれがどんなプラットフォームでも通用するものだけど。」
「うーん、でもファーストアルバムまでは雨宮夏未さんが作詞担当する事は決まってんだろ?だからまぁ急ぐ事でもねぇし、一応聞いてみるだけ聞いてみとこーぜ。」
「一応、俺の意向は説明しておいてね。」
「オッケー。」
「わぁ〜楽しみぃ〜!」

「オーイ!聞いてくれよぉ〜!」
 談笑する三人の下へ、力也が興奮しながら戻ってきた。
「ん?」
「どーしたんですかぁ?」
「この間の声優の仕事の詳細が送られてきたんだよ。あ、これ資料だよ、ちなみちゃん。」
「おー。」
「あ、本当にぃ?」
 興味津々という様子でまずはちなみがそのアニメ作品の資料に目を配ってゆく。周りの三人も面白そうにその様子を見つめている。と、一通り読み終えたちなみが一言皆に言った。
「…ねぇ、この『りりむキッス』っていう作品のヒロインって、なんだかさっき言ってた東城先輩に似てません?」
「え?」
 身近な人間に似ていると聞いてヒロシが力也と一緒に渡された資料を見る。
「あ〜確かに言われてみれば。」
「でしょ〜?」
「それも高1くらいの時の東城が漫画になったらこんな感じだよな。ストーリーは… … …プッ!いや〜でも中身は東城とは似ても似つかないわ。むしろどっちかってゆーと端本に近いかも。くっくっく…。ちょっと読んでみ、Satol。」
 笑いを堪えきれないといったように口を押さえながらヒロシがSatolに資料を手渡す。
「えーと、何々?純情硬派を気取った少年が、男をたぶらかして生気を吸い取る悪魔りりむに振り回されるドタバタラブコメ?」
「男をたぶらかして生気を吸い取るなんてむしろ端本そっくりじゃん!適役じゃねーか。あっはっは!」
 白い歯を出してからかうように笑うヒロシにちなみと力也が猛烈に抗議をした。
「え〜?ちなみ、そんな女じゃないですぅー!失礼しちゃう!」
「そうだよ!ちなみちゃんの何処が男の生気と吸い取る悪魔なんだよ!ちなみちゃんはどっちかってゆーと女神だろ!」
「キャー素敵!小宮山さん!じゃあね、あのね、女神のちなみからお願いがあるんだけど、ちなみ、ロレックスの時計欲しいなぁ。」
「お安い御用だよ!ホラ見ろ!今やトップアイドル!そんなちなみちゃんのどこが悪魔で、第一たぶらかされてる男なんてどこにいるんだってんだよ?」
「キャー小宮山さんって本当最高のマネージャーですね!もうちなみハグしちゃうッ!(やったー作戦セ・イ・コ・ウ!)」
 鼻血を出しながら力説する力也にヒロシは前髪の奥から哀れみにも似た瞳を潜ませながら心の中でツッコミを入れた。
(お前のことだよミツグ君(こみやま)……。)



←■SCENE-07:『日曜日の午後は耳を澄ましている』 ■SCENE-09:『偽りを逃れる夢』→